現代の薬害報道に思うこと -タミフル騒動-

タミフル報道で薬害に発展させようと思っていたマスコミもとうとう諦めたようで、急速に報道が沈静化してしまったようです。まあ、当然ですが。今はみっともないほどのフォローが始まりつつあるようです。やれやれ。

専門家、医師、薬剤師は最初から冷静に受け止めていた人が多かったようです。たしかに異常行動というのはセンセーショナルではありますが、同じ副作用を持つ薬剤は多いのです。元々タミフルが発売される前からインフルエンザ治療では異常行動の例はありました。タミフル発売前後異常行動が増えたかどうかなんてのは医療現場の人が良く知っているのです。

まあ、タミフルの10代への処方が制限されましたので、因果関係があるのなら次のシーズンには異常行動はきっと激減することでしょう。しかし、もしそうでなかったらマスコミはどう報道するのでしょうね?

しかし、影響があったのはむしろ患者の方で、ちょっと前までは、インフルエンザ検査陽性でもないのに、仕事や受験を理由に予防的にタミフルを処方して欲しいという要望が多かったそうですが、今は、インフルエンザ陽性でもタミフルを避ける人が多いそうです。まあ、今流行しているインフルエンザは死亡率も高くないし、特別抵抗力の弱い人でなければそのほうが良いとは思いますが。

しかし、もしこれが致死率の高いインフルエンザが流行している時だったらどうなっていたか?それに効果があるのがタミフルだけだったら?もちろん処方を拒否した場合は致死率が高くなるわけです。が、やはりあまり良く知らない人は、特に流行初期には処方拒否があるかもしれません。その場合、助かるはずの命が助からなくなるわけです。これは報道被害と言っても良いかもしれませんね。

いわゆる薬害というものには被害者が居ます。もちろん薬の直接的な被害を受けた方たちですが、場合によっては報道によって耐え難い苦痛を受けるケースもあります。最近では薬害エイズなどがその代表例で、ご存知の方も多いかと思いますが、エイズについては当初かなり怪しげな病気、一時期は性病のように扱われていたこともありますし、感染力についても不明な点が多く、いい加減な報道によって薬害エイズ被害者はその多くが厳しい差別を受けました。入学拒否、就業拒否・・・・いろいろなケースがあったそうです。

このような事件は過去にもありました。これも有名なスモンです。スモンというのは、キノホルムという薬剤が原因で起こっていた病気の名前で、当時の学会では謎の病気とされており、ウイルス説などが仮説としてありました。しかしながら、当時の某新聞社が「スクープ!スモン病の原因はウイルス!」との報道で、被害者たちは一転保菌者扱いとなり、差別の対象となってしまったのです。ほとんど薬害エイズの時と同じですね。このときは多くの自殺者が出ました。障害の苦しみは元より、差別の苦しみを訴えて亡くなられた方も多かったとのこと。悲惨ですね・・・・無責任な報道は人を殺す場合があります。これは良く心得ておいてもらいたいものです。

しかしながら、昨今の薬の問題には、複雑なものが数多くあります。明らかに不足している知識で書かれている記事が多いのも見方によっては無理もないものもあります。

たとえばソリブジン事件がありました。これは今でも「ソリブジンの副作用によりXXX名の命が失れ・・・」みたいな書き方をされる場合があります。これは間違いで、ソリブジン自身に致死的な毒性があったわけではありません。ソリブジンがフルオロウラシル系抗がん剤代謝を阻害するため、抗がん剤の毒性が増強されて亡くなっているのです。

もちろんこれは薬害なのですが、製薬業界的にはとても考えさせられてしまう事件でした。ソリブジンは消えましたが、今もフルオロウラシル系の抗がん剤は広く治療に使用されています。毒性を発揮した当の薬が生き残っているのです。もちろん、効果は確かな薬剤であるので、それに問題があると言っているわけではないので誤解なきよう・・・・

ソリブジンもフルオロウラシルも、単独で適正に使用された場合は優れた薬なのです。同時に投与された場合のみ強力な副作用が起こるのです。で、私の持つ疑問点は、以下のようなものです。

もし、ソリブジンがフルオロウラシルより先に発売されており、治療に広く使われ、後発のフルオロウラシル発売後にこの事件が起きていたらどうなったか?おそらく「フルオロウラシル薬害」となっていたことでしょう。納得がいかないような気がしませんか?まあ、人それぞれ思うところはあると思いますが。

この事件に関しては、むしろ副作用情報による株価の下落を見越したインサイダー取引の方が大きく取り扱われたため、当の薬害そのものの扱いが低く、実態があまり一般には伝わらなかったようです。かなり特異な事件だったので、経験として覚えておくべきだと思うんですけどね。

あと、現在薬害かどうか微妙な状態の薬もあります。それが抗がん剤イレッサです。これは、副作用ですでに数百人が亡くなっていると思います。んじゃ薬害じゃないか、とい思われる方も多いと思うのですが、現時点でまだ承認取り消しにはなっておらず、今でも販売されています。とんでもない話じゃないか!!と思われる方も多いかと思いますが、実はこういうことなんです。

この薬、肺がんなどの治療に使われるものなのですが、手術不能であり、かつ他の治療法では効果が無い人に使われるものです。セカンドラインという言い方をするそうですが、最後の切り札のようなものですね。

で、効果はどうかというと、実はこの薬によって劇的な改善を見せる場合があります。このあたりはちょっとぐぐれば実際の患者さんの声を見ることが出来ると思います。ただ、重篤間質性肺炎などの肺障害を引き起こす場合があり、これが副作用死の原因となっています。

さて、みなさんならどうします?たとえば医者からこう言われるわけです。

「残念ながらあなたの肺がんは切除が出来ません。また、既存の治療も今のところ効果が無いようです。現時点では余命XXXヶ月といわざるを得ません。ただ、最後に一つだけ薬があります。この薬は劇的な効果がある場合もありますが、重篤な副作用で死ぬケースも多いです。試してみますか?」

う〜ん、どうしよう。私もその時になってみないとわかりません。で、この薬が今日でも使用されている原因は、患者団体の嘆願書が当局に押し寄せているからです。やはり、最後の希望、というのは強いんですよね。もちろん、こんな薬は即刻承認を取り消すべきだ!という意見もあり、承認取り消しの意見書を提出している団体もあります。当然被害者団体も存在し、訴訟もすでに起こっています。

さて、これは薬害か?う〜ん、そういえば薬害の定義ってあるのかな・・・・・

今後は自分が飲む薬は自分で判断できないといけないかもしれません。その際は、決して一方的な報道のみで判断するのではなく、自分で調べて見るのが良いと思います。今は医療用医薬品の添付文書もネット上で簡単に見られますし、使用経験なども見つかる場合も多いでしょう。薬を飲んで被害を受ける場合もありますが、薬の知識が無いままに効果のある薬を拒否して死ぬ場合もあるでしょう。どちらの被害者にもなりたくありませんね。